東京地方裁判所 昭和40年(ワ)2727号 判決 1966年10月14日
原告 今井一芳
右訴訟代理人弁護士 松尾公善
被告 高野茂三郎
同 高野義一
右両名訴訟代理人弁護士 渡辺良夫
同 四位直毅
主文
一、被告等は各自原告に対し金一五五万〇七七〇円およびこれに対する昭和四〇年一月一日から支払ずみとなるまで年五分の割合による金員の支払をせよ。
二、訴訟費用は被告等の負担とする
三、この判決は仮りに執行することができる。
事実
<全部省略>
理由
一、原告が昭和三六年九月七日頃被告茂三郎に対し現金二〇〇万円を交付したことは当事者間に争いがない。
二、そこで右金員授受の趣旨について判断する。<省略>によれば、右二〇〇万円は原告が従来営んでいた茶、のり等の小売商の店舗を家主に明渡した立退料として受領した三五〇万円の一部であって、原告と被告茂三郎とはいずれも創価学会の会員で共に班長をし懇意であった関係から、被告茂三郎は原告に対して右二〇〇万円を出資して製罐板金の共同事業をやらないかと申入れたが、原告は前記三五〇万円中一五〇万円は既に債権者に支払っており、右二〇〇万円以外にはなんらの資産を有せず、しかも第三者に対する債務も残存していたので、被告茂三郎の申出には応ぜず、もっとも右二〇〇万円は債権者の追及を免れるため手許におきたくなかったところから、これを利息ならびに弁済期を定めずに被告茂三郎に貸与することとし、但し内金五〇万円は請求次第返還するよう、また残金一五〇万円も一、二年後には返還して欲しいと申出たところ、同被告もこれを了承して右二〇〇万円を借受けたこと、なお同時に被告茂三郎は自己の営む製罐板金の事業に原告を雇傭して記帳等の事務ならびに雑役に使用し、日給一〇〇〇円を支給することとなったことを認めることができる。<省略>他にも右認定を左右するに足りる証拠はない。
三、次に前記甲第一号証及び原告本人の尋問の結果によれば、原告及び被告茂三郎は昭和三八年六月一三日頃前記貸金二〇〇万円中当時の残存額についてその弁済期を昭和三九年一二月末日と定め、また、被告高野義一はその頃原告に対し被告茂三郎の右残存額の支払につき保証をしたことを認めることができる。
四、ところで、被告義一は右保証は原告の強迫に基く意思表示であると主張し、なお被告等は被告茂三郎の主張としても前記甲第一号証は原告の強迫に基き署名捺印したものであると主張するので、この点について考えるに、原告、被告茂三郎および被告義一がいずれも創価学会の会員であって、原告および被告茂三郎は共にその班長、被告義一は班長の上司である地区部長であり、創価学会には会員相互の間で共同事業をしないこと等の戒律があることは、原告本人の尋問の結果によっても明らかであり、更に原告が昭和三八年六月上旬頃、住居を千葉市に移し、事業をはじめるので、再三被告等方を訪れて二〇〇万円の返還を求め、直ちにその返済ができないならばせめて被告義一を保証人として借用証書を差入れてくれと要求し、また地区部長の被告義一の更に上司にあたる支部長の大類某に相談し、同人から被告義一ないし茂三郎のいずれかに対し善処すべき旨の電話がなされたことも、原告本人がみずから供述するところである。
しかし被告等は原告より上司に報告すると強迫され、上司に報告されれば役職を解任されるおそれがあると畏怖し、原告の要求するまま甲第一号証の借用証書に主債務者ないし保証人として署名捺印したものであるとの被告等の主張については、創価学会の会員相互間においては共同事業のみならず金銭の貸借も亦同様に禁ぜられていることは、被告等みずからが主張しかつ本人尋問の結果中において供述するところであるから、被告茂三郎が貸金証書に署名捺印したのは真実の契約は出資契約であるがこれを上司に報告されることを憚ったためであるとする主張はその根拠薄弱であり、被告義一に至っては、被告茂三郎と同居してはいたが別の事業を営んでおり、なんら原告と被告茂三郎との間の取引に関与していなかったことは被告義一本人の供述するところであるから、むしろ役職の解任をおそれるならば保証を拒絶して然るべきであったと考えられる点等に徴すると、被告等各本人の前記主張に相応する供述は到底措信し難く、かえって、如上認定の事実によれば、被告茂三郎が甲第一号証に主債務者として署名捺印したのは、原告の再三の要求や上司の口添えによったものとはいえ、真実の契約関係を後日に至って書面にしたというにすぎず、被告義一も亦義父茂三郎が原告との間に貸借関係を結び創価学会員としての戒律に背いたことに困惑はしたものの、茂三郎が原告に迷惑をかけていることを養子として恐縮に感じ、かつ地区部長としての体面を重んじ、自由意思の下に原告の要求に従って保証をしたものと推認するに十分である。
五 <省略>。
六、よって被告等の甲第一号証に対する証拠抗弁ならびに被告義一の各抗弁はいずれも採用できない。
七、してみれば、原告の被告等各自に対して、本件貸金二〇〇万円中原告が返還をうけたことを自認する合計四四万九二三〇円を控除した残額一五五万〇七七〇円、およびこれに対する弁済期の翌日である昭和四〇年一月一日から支払ずみとなるまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める本訴請求は正当である<以下省略>